#9 大井沢自然博物館学芸員 武浪秀子さん

ヒメサユリb#9 大井沢自然博物館学芸員・女性のための生き物ネットワーク「エコトーンやまがた」代表 武浪秀子さん

「本物の力は、強いです」


Profile

神奈川県にて生まれ育つ。山形県西川町大井沢在住。大学時代は、造林・風致学を学び、実習が中心の研究室の授業において、多くの時間をフィールドにて過ごす。卒業後、会社員を経て、1999年より大井沢自然博物館<学芸員。2005年、女性のための生き物ネットワーク「エコトーンやまがた<」を設立。

*写真:朝日連峰に咲くヒメサユリ*

 

記事公開:2012-7-20

 

「地方の小さな博物館」に惹かれて
 ここ(大井沢自然博物館)との最初の出会いは、大学時代。母の実家が山形だったから、学芸員になるための実地実習先を県内で探していて。その中で引き受けてくれたのがここだったんです。
 人口300人程度しかいない、ほんの小さな山あいの集落の中に博物館がある。そしてそこには、生の資料が豊富に揃えられているそのことが驚きだったし、感動がありました。もちろん、資料の作りの良さや種類の豊富さでは大規模博物館には敵わないけれど、そこにはない魅力があった。「地方の小さな博物館」という存在に私は惹かれたんです。  だけど、当時ここで学芸員としての就職口はなかったから、とりあえず大学卒業後は一般企業に就職しました。それで、1年間勤めた後、臨時職員としてどうか、と声がかかって採用してもらったんです。それからずっと今まで、ここで働いています。

展示資料は、いわばナビゲーター
 ここの博物館の魅力は、展示物の種類の多さはもちろんのこと、地域の方々が教育のために収集したという歴史的背景にあると思っています。山にすむ多種多様な生き物たちに出会えるという点では、ここはとても面白い場所なんじゃないでしょうか。 最近は、山形の自然事情もだいぶ変わってきているので・・・。
 だけど、展示で見せられる、伝えられることってほんの一部でしかないんです、実際のところ。 自然の中に入って体験してみないとわからないことの方がはるかに多い。そう考えると、展示資料はある意味自然の中に入るためのナビゲーターのような存在ですね。 実体験で学ぶことの大きさと同じくらい、ナビゲーターの存在も大きい。 だから、ナビゲーターは確かなものじゃないといけないし、必要不可欠なんです。 実物を生で見る、体験するキッカケというか入り口として博物館はあるのかなと思っています。

教育施設としての博物館
 一般的に、博物館の役割は、資料収集・保存、教育普及(展示)、そして調査・研究の3つあるんですけど、ここのような地方の小規模博物館の場合は、地域社会や外部との情報交流の場としての役割もプラスされると思います。こんな感じで役割は色々ありますけど、個人的には教育活動、特に子供たちへの教育活動にもっと活用していきたいですね。
 そしてそれは、地元の子供たちだけじゃなくて、都心部の子供たちに対しても。
最近は、都心部の子供たちの方が自然に対する興味関心は強いんですよね。普段触れる機会が少ないからなんでしょうか。 その教育活動が、都市と地方が互いに理解し合える一つのキッカケになればいいですよね。
 それに、小中学生だけでなく、大学生や研究者たちの研究対象の場やフィールドワークの場所としても有効活用してもらえたらいいですね、理想ではありますけど。 本来、教育施設としての博物館ですからね。
 「教育」と言えば大げさですけど、子どもたちに自然の楽しさ、不思議、すごさを知ってもらいたいという思いはありますね。 博物館の展示物を見た子供たちに、「ちょースゲエ!」なんて言われるとすごく嬉しくなります。

目指すは、キッカケ作り
 “女性のための生き物ネットワークエコトーンやまがた”にしても、目指すところは似ています。 「参加する人が自然に興味を持つキッカケ作りをできる団体でありたい。」 そういう思いがあります。
 “自然を大切にしましょう”とよく言われるけれど、何で大切にしなければならないのかって意外とわかられていないと思うんです。自然って想像以上に奥深いんですよ。 それに、自然の大切さって、経験や他から学ばない限り日常生活ではなかなか実感が得られないですよね。
 だけど、自然分野の仕事に携わったり、勉強会などに参加したりしていつも感じていたのが女性の少なさ。 特に山形は・・・。 だから女性にもっと自然へ目を向けてもらいたいという思いが募って、“エコトーンやまがた”を立ち上げたんです。その中で、自然観察や体験・保全活動などを通して“自然”を知る・学ぶキッカケ作りをやっています。 楽しくゆるゆるな感じがうちの会のウリですね。
 そうそう、男性は参加できないのですか?とよく聞かれますけど、男性も参加できますよ。歓迎してます。

良き「先生」、「指導者」との出逢い
 こういう風に私が考えるようになったのも、 「先生」「指導者」からの影響は大きいと思います。
 例えば、小学校高学年の時の担任の先生。 授業を受ける時は、 「意欲がある人は前に座れ。眠かったら後ろで寝ていてもいい。その代わり、責任は自分でとれ。」 と言われていました(今だったら大変な問題になりそうですけどね)。 授業はディスカッションが多くて、先生が司会進行役を務めて生徒の意見を引き出すんですよ。 大学のゼミのような感じでしたね。 ディスカッションに熱が入り過ぎて延長や時間割変更なんかもありました。教科書通りではなくて、自分の頭で考えて、自分で責任を持って発言、行動できる人になって欲しかったんでしょうね、きっと。 すごく怖くて厳しかったけれど、子どものことを第一に考えてくれる先生でしたね。 色んなものを実体験させてくれる先生でもありましたし。
 大学時代の研究室の先生もユニークな人でしたね。 研究方法も特殊だし、とにかく異質なところでした。 その先生も実体験をものすごく大切にする人だったから、授業はほとんど実習で、しょっちゅうフィールドに出ていましたね。
 でも最大の先生というか指導者は、両親。 父は、「百聞は一見に如かず」が口癖でしたし、母は「人生は一度。好きな事をしたらいい」と言ってどこにでも出してくれました。 (内心、かなり心配していたんじゃないかな) 今思えば、これまでの人生で「先生」、「指導者」と呼ばれる人には恵まれてきましたし、私が今こういう仕事をしているのも関係しているでしょうね。
私もまだまだ不十分ですが、実際、何かを学ぶ、理解するうえで肝心なのは発想力だし、その発想力も経験に基づいて養われるんじゃないかと思うんですよね。全てではないですけど。そして、その経験に座学をプラスすれば、頭に入ってきやすくなると思いますし。そういう場としてここを活用できれば面白いですよね。

自然物の魅力
 純粋に自然とか生き物が好きなんですよね。元々は動物が好きだったんですけど、大学で研究するようになって植物も好きになってきたんです。植物は、種類数がとてつもなく多いし、地域ごとの多様性もあります。 そして、生態系のピラミッドの中でほぼベースに位置している存在は大きいし、人間の生活との関わりも大きいと思うんです、目には見えにくいけれど。 それにまだまだ解明されていないことも山ほどあって不思議だらけ。 だからこそ面白いし、自然物に惹かれるのかもしれないですね。わからないことばかりだからあれこれイメージするのが楽しいですよ。 地方の自然には、都会では得られない発見がたくさんあるし、いつも新たな発見や気づきがあります。 胸が高鳴る瞬間でもありますね。

本物の力
 本物の力は強いですよ、やっぱり。 どれほど科学技術が発達して、どれほど映像が美しくなったとしても、本物には敵わないでしょうね。
 「伝えたいな」 その本物をここで色々見てきて(ほんの一部ですけど)、その貴重さとか価値がわかればわかるほど、そう思うようになったんです。 伝える“場”としてここを上手く活用していきたいですね。

 

<編集後記>
 学生時代、テスト前にあれだけ詰め込んだ知識の数々。 だが、今となっては忘却の彼方へと追いやられてしまっている。 あまり本物に触れてこなかった過去を、少し悔やんだ。

 

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