#103 NPO法人 スマイルスタイル 理事 島田 彩さん

13918830_10206113181782830_23808139_o.png 「みんなもっと、自分を主語に生きてほしいなと思うんです」

 

 

1987年生。大阪府出身、在住。関西大学(マス・コミュニケーション専攻)を卒業後、学生団体の手伝いなどを経て、2010年、スマイルスタイルのメンバーとなる。以来、かぎかっこプロジェクトまちときどきカエルなど、おもに教育デザインを担当。直近では、高校生百貨店プロジェクトにディレクターとして関わった。あだ名はしーちゃん。

※ 文中敬称略

記事公開:2016-8-2

 

教育の世界へ
「しーちゃんがほんまにしたいことをもっと突き詰めてみて」
 スマスタが主催する「ユメコラボ」というプロジェクトのコンペで島田がプレゼンをした後、審査員を務めていたスマスタ代表の塩山から、二次審査の面談でそう声をかけられたのは2010年夏のことである。
 発展途上国に学校を建てたり、NPOを立ち上げたり、学生団体でおこなう社会貢献活動がブームとなっていた当時のこと。キラキラしている学生を「意識高い系」とくさしたり嘲笑ったりする風潮がまだあらわれていない頃だったと島田は振り返る。
 関西大学を卒業して間もない島田は、知人が運営する学生団体にて広報物のデザインを手伝っていた。その日、都合がつけられず参加できなかった代表の代役を務めたことが島田に人生の転機を運んでくる。
「本当はこんなこともあんなこともやりたい、あとはね……」
 島田のなかに潜在する何かを塩山は感じ取っていたのだろうか。初対面でもフランクに心を開いて接してくれる塩山に、気づくと島田は、それまで懐にあたためていた思いのたけを語っていた。
「塩山の言うとおり、わたしが思い描いていた企画はどれももっと突き詰めて練らなければならないものでした。でも、そのときしゃべった内容のマインドの部分や、わたしのデザインにおけるスキルが、ちょうどスマスタが取り組み始めていたことに役立てる内容だったんです」
 2016年6月現在、27名のスタッフを抱えるスマスタの揺籃期にあった当時のこと。在籍していたメンバーは3〜4名、大きなクライアントも少なかったこともあり、一緒に会社を作っていく仲間として声をかけられた島田はスマスタの一員となったのである。
「社会を生き抜くため、課題に打ち勝っていくための創造力、想像力を子どもらの中にいかに育めるか。ワークショップなのか本なのか、その手段は時によりけりです。言いあらわすときに使う言葉も変わりました。でも、教育の分野に関して自身がほんまにやりたいことは、ずっと変わっていないんです」
 島田の教育への姿勢が前のめりになったのは、高校3年のとき。生徒会に所属していた島田は、高2と高3のとき、それぞれ10日間ずつ、現地の社会事情を学ぶスタディツアーに参加し、フィリピンを訪れている。
 現地で出会った10歳の女の子は3~4歳とおぼしき弟とふたり、道端で暮らしていた。彼らはストリートチルドレンと呼ばれる子どもたちである。聞けば、学校教育は受けておらず、「麻薬を売ったらダメだよ」など、ケアマネのような人から道徳を教わることがたまにある程度だという。彼女は島田に話しかけてきた。
「(あなたたちは)勉強できていいな。何歳なの?」
「高校3年やで」
「え、じゃあつぎ大学?」
「そうそう」
「将来の夢は? 大学って専攻とかあるんだよね?」
「うん。大学では広告学ぶねん」
「じゃあ将来はキャスターとかになるの? もしキャスターになったら、わたしらはかわいそうじゃないって報道してくれない?」
 通訳者を通してたわいもない会話をしていたさなか、年に見合った話し方をする彼女が発した一言に島田の胸は射抜かれていた。
 ボロボロの布にくるまれた、痩せこけた赤ちゃんの写真を胸に刺さるコピーが引き立てている。同情や憐憫をかきたてるべく作られたかのような支援機関の広告が打ち出されていた当時のこと。かわいそうに思われたほうが寄付金は集まりやすいのだとしても、守りたい尊厳や矜持があったのだろう。彼女は言葉を継いだ。
「わたしらはそんなにかわいそうじゃない。こんな境遇ではあるけど、毎日一生懸命に生きている。何やったら、そのへんの子らより生きる力があると思っているから」
 誰かに入れ知恵されている様子もなければ、怒りや悔しさを訴えかけるような感じもまったくない。島田の胸を揺るがしたのは、自身の気持ちをすなおに語るひとりの“社会人”の姿だった。
「通訳者を通じて聞いた彼らの声だから、実際に彼らがどういう言葉を使っていたのかはわかりません。ただ、極地に立った人間の挑戦力、生き抜く力みたいなものを見せられた気がして、めっちゃかっこいいな、子どもを尊敬しようと思ったんです」
 幼い頃から「子ども」や「教育」に関心が向かっていた島田には、教師という職業も選択肢のひとつとして考えていた時期がある。しかし勉強を教えることに興味は湧かず、マス・コミュニケーションを専攻した大学時代などは、広告関係の仕事に行方しらずの心を漂わせていた。
「いま思えば、勉強から学ぶことってすごく多い。だから、国語、算数、理科、社会などの科目授業を通して、子どもに生き抜く力をつけられる技術を持ってはる先生ってすごいなと思うんです」
 島田が尊敬している教師のひとりに、スマスタの仕事を通して出会った小学校教師がいる。彼はたとえば社会で室町時代を扱うとき、クラスを金閣派、銀閣派にわけ、議論を戦わせる。リサーチを重ねた銀閣派の生徒からは「銀閣寺は、今も残る書院造の元になっていて……」という発言も飛び出してくる。
「相手に勝つためには緻密な下調べが求められるから、否が応でも生徒たちはテーマにまつわる史実に詳しくなるし、歴史を好きになるとも思うんです。ものを調べる力や人と議論する力もおのずとつくでしょうし」
 人間力と呼べるようなものをつけたい、社会課題に関わりたい――。当時の島田にとって「教育」や「広告」は、胸の内で伏流する言葉にならない思いを実現できそうな手段だったのだ。
「教育界が抱える課題を解決できる社会の仕組みを作り、いろんな学校に届けるほうが本質から変えられる」塩山と出会った後、もともと教師志望だったスマスタの先輩社員からそう聞いて深く共感したことも、海外のアートスクールに通うつもりだった島田をスマスタへと引き寄せていく。さだめに導かれるようにして生まれた縁は、島田を教育の世界へと連れ戻していった。

 

誰かに褒められたくて
「砕いて言うと、褒められることがめっちゃ好きなわたしは、生まれたときからの子ども好き。子どもの面倒を見たら、「いいお姉ちゃんやねぇ」とか「しっかりしてるねぇ」とかって褒められるじゃないですか。少なくとも怒られることはないわけで。(笑)とにかくみんなから褒められたい、大人からは期待されたい、年下からは憧れられたい、みたいな気持ちが異常に強い子どもだったんです」
 島田のもっとも古い記憶は0歳のときのものだ。自身がくるまれていたおくるみの色やデザイン、肌触りなどもありありと憶えている。
 早熟といえばいいのか、3歳頃にはすでに、TPOに合わせて一人称や丁寧語などの言葉を使い分けたり、必要とあらば幼いふりをするようになっていた。おない年の子どもが「あれほしい」「おなかすいた」など、ようやく主語と述語が整った言葉を発せるようになった頃のこと。相手に与える影響を踏まえながらも「そういうことができれば必然的に褒められる」との自覚もあったという。
 当然のごとく幼稚園でも小学校でも目立つ存在となった島田は、歌をうたうときや体育の時間に逆上がりをするときなど、ほかの生徒の前で模範を見せる機会を与えられることも多かった。「注目を浴びるうえに褒められるのが、とても気分がよかったんです(笑)」
 そんな島田の欲求は、幼稚園時代、嫌がらせとも受け取れる周囲の行動に幸せな思い込みを生み出していく。鬼ごっこでは毎回のように鬼に指名されるのみならず、島田が鬼になったときだけ特別ルールが適用されるようになる。ひとことで言えば、島田が永遠に鬼をやりつづけるように仕組まれたわけだが、当の本人はその意地悪に気づきながらも平気の平左。むしろ帰宅すれば母親に「ママ、今日、ずっと鬼やってん」と誇らしげに報告するほどだった。それを耳にした従姉妹が「彩ちゃんっていじめられているんとちがう?」と心配していたと聞いたのは中学生のときだ。
「図工の作品を隠されたときも困りはしたけど、だいぶ特殊扱いされていると思えば、とても気分がよかったんです。(笑)まわりはわたしが困ったり、泣いたりする姿を見たくてそういうことをしているのに、もう一回作り直して隠されたことを忘れているから、いじめ甲斐がないというか、おもしろくなかったでしょうね」
 一方で島田は打算的な面も持ち合わせていた。これはうまいことやらんと嫌われるな――。いつからか芽生えた洞察が的中し、女子グループのボス的存在の嫉妬や不興を買ったこともある。ともあれ、子どもの頃に培ったものは島田の血肉となっている。
「鬼ごっこでずっと鬼をやっていたおかげでめっちゃ足が速くなったし、リレー選手に選ばれて運動会では注目の的にもなれた。小中学校のときのわたしは、かわいげのない変な奴だったんです(笑)」
 高校生を相手におこなうワークショップ中、彼らの反応いかんによって、決めていた筋書きをアレンジしたり、順番を変えたりと臨機応変に対応するのは島田のお家芸だ。
「褒められたい、期待されたいという欲求を満たすため、他人の顔色から心情を読み取ろうとしてきた力が生かされているんだと思います。それこそ幼稚園の頃よりやってきたことだから年季が入っているんですよね(笑)」
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