No.51 無農薬栽培農家の卵 橋本光弘さん


 しかも今は、グローバル社会です。つまり、ごく一部の人間が全世界的に同じ基準で動かそうとしている世の中です。でも、ある本にはこう書かれていました。「何かを統一していくと、そこに競争が生まれる」のだと。「2匹のダンゴムシを全く何もない虫かごにいれると争いを起こす。だけど、そこに石や砂をちょっと入れただけで上手く棲み分けをする。」という実験例が挙げられていました。要は、周りの環境が多様であればあるほど共存しやすい社会ができていくということ。その理屈を農業に当てはめれば、たとえ面積は狭くとも出来るだけ多くのものを取り入れていく方がよいということ。そういう考えがあっての、米と野菜と果樹の複合経営というビジョンでもあるんです。(ほんとは、畜産や養蜂もしたいんです)それぞれの作物にはそれぞれの微生物や益虫、害虫がつく。その種類が多ければ多いほど天災や気候変動があっても対応できる。・・・と本でも訴えていますから。
 そんな風に自分の中での理想はだんだん固まってきているんですよね、何もやっていない段階で言うのは何ですけども。(笑)考えてみれば、農業をやるって決めてから何だかんだ5年以上の月日が経っているんですよね。自分自身、鈍いというか、もっと早く今の段階までたどり着けたのかもしれません。でも、もし、2年前にあのまま就農していたら、絶対失敗していたと思います。知識がないばっかりに違う方向に行きかねなかった。そういう意味では、ほんとに自分がやりたい方向性を導き出す上ではいい5年間だったと捉えています。
 根底に息づく「微生物が作物を育てる手助けをしている」という前提を始めとして、自然農なり有機農業は目に見えない世界の話が多い分野です。だから、きっと周りからはあんまり理解されにくい世界でしょう。でも思うんですよ、自分が実際にやっているところを見せることができたとしたらやってみようと思う人もいるんじゃないかって――。そう強く思えるのも、前向きになれるのも、同じ分野できちんと結果を出している人、京都で雇ってもらった農場主の人と出逢えたからなのかもしれません。元はと言えば、彼も脱サラ組。20年前くらいでしょうか。農地を求めてやってきたその場所で、最初は周りから教わるがままに規模や効率を追求した農業をやっていたそうです。でも、あるタイミングでそのやり方に違和感を感じ、有機栽培に切り替えたとか。実際、最初の3年くらいは全く作物がとれない状態だったんだけど、それ以降は年を追うごとに土の状態や生態系が変わっていって良い作物がとれるようになってきたと言います。そういう実体験をして肌で感じているわけだから、疑う余地はないですよね。
 そして、失礼な言い方だけど、そういうものを良しとする消費者を育てていかないといけないと思っています。肌感覚として、(特にこの地域は)今のところそういう人が少ないなというのがある。やっぱり、3.11を直に経験した僕らからすれば、社会への問題意識みたいなもののギャップがすごく大きくて。「果たして、今の社会の仕組みは本当に正しいのか」という疑問が次から次へと湧き出てきますから。かと言って、自給自足の生活を送っていた昔が100%いいわけじゃない。大事なのは最適なところにもっていくことかなと。だから今後は、たくさんの人と今の生活のあり方について話し合える機会を設けられたらいいなと思っています。目指しているのは、農業を通して生き方を考え、実践していくこと。
 資本主義経済、そしてグローバリゼーション。一人の力ではどうしようもない厳然たる社会の仕組みを無視して生きることはできないでしょう。でも、自分が出来る範囲で、少しでもいいから環境負荷のことを考えて実践していけば、いずれ大きな改善につながってゆくと思いますから。 

 

<編集後記>
僕も橋本さんのようにプレイヤーでありたい。


記事公開:2013-09-23

Pocket

1 2