#75 染色作家 / 版画家 / 絵本作家  田島征彦さん


 祇園祭をテーマにした「祇園祭展」は、征彦が「京都近辺にいる作家を選抜して、彼らと一緒に展覧会をやらせてほしい」と美術館に持ちかけたことがきっかけとなり、09年夏より始まった。当美術館が祇園祭の開催地となる「鉾の辻」近くにあったことも推した理由のひとつだった。その際、征彦がした「5年は絶対にやる」との約束は、昨年夏に第5回が開催されたことで守られた形となった。
 そして、迎えた6年目(第6回目)となる今年。美術館の計らいにより、過去5年間の征彦の作品と新作を展示する個展も開催されたのだ。
「(たとえ故人であっても)個展をめったに開かないその美術館で個展を開催させてもらえたうえに、評判を受けて「(展示した作品を載せた)豪華な画集」を作ってもられる運びとなりました。
 その例のみならず、今までは考えられなかった「無理にこちらから求めなくとも、向こうからくる」というようなことが、同じく70歳の峠を越えたあたりからちらほらあるんです」
 今年6月、征彦は3、4年かけて作った絵本『ふしぎなともだち』を上梓した。主人公のモデルとしたのは地元淡路島に暮らす自閉症の青年である。「あったかい気持ちになれるものを」との思いで作った本作が出版されると、周囲からは思いがけない反応があった。
「すごく多くの人から感謝されたんです。こんなことも生まれて初めて。 そんな風にかつての自分から脱却した今は、これからおれの新しい人生が始まるんやと思えるくらいにいい状態なので、このまま突き進んでいきたいですね」

<編集後記>
79年4月。宅間英夫さんの臨終に病室で立ち会った際、田島さんは共通の知人からこう言われたという。「田島さん、宅間君は、この五年間、本当に生き生きしていましたよ。彼はあなたに期待して、それが酬(むく)われていました。宅間君は、幸せでしたよ」

<編集後記>
きわめて不平等なこの世界で、もっとも平等に用意されているのは「誰か(何か)に託す幸せ」を手にするチャンスなのかもしれない。


 

【参考文献・引用文献等】
田島征彦『くちたんばのんのんき』 (1979)
田島征彦『王さまが裸で歩いとるわ~続・口丹波呑呑記』(1985)
田島征彦『丹波でいごっそう』 (1994)
田島征彦『憤染記  -田島征彦作品集-』(1995)
田島征彦・田島征三『ゆきちゃんせいちゃん往復書簡』(2003)
田島征彦・田島征三ほか『激しく創った!!  田島征彦と田島征三の半世紀』(2006)
『激しく創った!! 田島征彦と田島征三の半世紀』p.8   「AERA ~現代の肖像~」1997年9月8日号より
京都新聞「美と歩む」 2009.11.14
http://shinobusakagami.com
「新・田島呑呑亭」http://tajimayukisyu.wix.com/sobehan1

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